相模原の森と里山で、野生動物の命と向き合う。狩猟で捕獲した野生動物を活かして伝える「命の大切さ」
相模原市緑区在住の竹内陶子さんは、2018年に相模湖からほど近い場所に住み始め、自身の畑をイノシシに荒らされる経験をしました。自然の中での生活に順応するため、狩猟免許を取得。狩猟で捕獲した動物は皮一つ無駄にしたくないという想いから、現在は「とこはむ」というブランドで、捕獲したシカやイノシシの革から作った製品の販売、革小物作りのワークショップを行っています。
また、キッチンカーでシカ肉のシュウマイ、シカ肉と豚肉の肉まん、イノシシ肉を使ったコロッケなども販売。さらに、賛同してくれる仲間と共に「野生動物との共生の会」を立ち上げて、ジビエ肉のレシピ開発や試食、革や角を使ったワークショップを通して、命のいただき方を一緒に考えてもらおうと啓蒙活動に努めています。
竹内さんがこのような活動をするようになった背景には、さまざまな国を訪れてきた中で、たくさんの命と向き合った経験がありました。
ニュージーランドで狩猟を初体験。メキシコでは革小物作りをスタート
竹内さんは高校時代から海外での暮らしに目を向けていて、高校卒業後、ワーキングホリデーで訪れたニュージーランドで1カ月ほどファームステイ。そこで初めて銃を持ち、狩猟を経験しました。
農場主から狩猟に誘われて、銃を担いで馬に乗り、農場の広さと景色の美しさに感動していたときのことでした。持ち主のわからない罠に子ヤギがかかっていました。すでに子ヤギは衰弱していて、農場主は罠を外しても生き延びられないと判断。竹内さんに、子ヤギを銃で撃ち、目の前にある小川に流すようにと指示しました。
当時19歳だった竹内さんは、自らの手で子ヤギの命を終わらせました。まだ体温の残るからだを抱き上げたときの、命の重さに触れた感覚が今の活動につながる原点となっています。
ニュージーランドから帰国後も、日本と海外を行き来していた竹内さん。革小物との出合いは、長期滞在していたメキシコのグアナファト州にあるレオンでした。レオンは、革の生産や加工にまつわる産業が集まる町で、ハンドメイドの小物も売買されていたことから、竹内さんは趣味で作った革小物の販売を始めました。
相模原で暮らし始め、畑を野生動物の被害から守りたいと狩猟免許を取得
海外で多くの時間を過ごしていた竹内さんでしたが、結婚をきっかけに夫である僚さんが住んでいた相模原市に越してきました。
相模原に住み始めて間もないある日、夫の僚さんが仕事で海外に長期滞在中、自分たちが食べるために育てていた収穫直前のジャガイモがイノシシに荒らされてしまいました。
イノシシの被害にあった後、竹内さんは夫の僚さんと共に狩猟免許を取得しました。
畑周辺に動物が通った形跡があると、輪っか状のワイヤーで脚を捉えるタイプの罠を仕掛けます。このとき、幼い個体がかからないようにサイズを調整するなどの配慮をしています。
罠にかかった野生動物は、できるだけ苦しめることがないよう、銃を使って仕留めます。息絶えたあと、食肉にするために必要な血抜きの作業をその場で行います。
狩猟し、動物の命をいただくことに対して自分の中で折り合いつけるために、ジビエ革の有効活用を始め、「とこはむ」を立ち上げた竹内さん。活動の中で野生動物の肉、ジビエに興味を持つ人も少なくありませんでした。そこで、キッチンカーやジビエアイテムの販売も開始。さらに、細かな規制をクリアし、精肉の販売を開始しました。
最近では、野生動物の被害に困っている近くの農家からの相談や、竹内さんの活動に賛同し、時間をかけて丁寧に剥いだ皮を提供してくれる猟師さんもいるそう。
竹内さんの想いは、着実に広がりを見せています。
ワークショップでは、いのちの大切さを伝えたい
「野生動物との共生の会」では、革を利用した小物作り体験のワークショップなどを行っており、会の活動は相模原市との協働事業にも採択されています。竹内さんはワークショップを通して、野生動物を取り巻くさまざまな問題に関心を持ってもらい、日常的に肉を食べられることや、革でできたバッグや靴、小物類を使えることも、日々誰かが命と向き合い、私たちのもとに届けてくれているからだということを知ってほしい、という想いがあります。
たとえ鳥獣対策であっても、「狩猟以外に手段はないのか」と思われているのも事実です。その一方で、狩猟免許保持者の高齢化など、動物の営みと人の暮らしのバランスを守る活動の存続が危ぶまれています。
自然環境や動物たちの命を大切に思うからこそ、その背景にある課題や、守っていくことの厳しさや難しさにも目を向けてもらいたいと、竹内さんは考えています。
動物の命と向き合う経験から竹内さんが培ってきた、自然を大切に想う心。
これからも自身の活動を通して、自然と人間との関わりというテーマと向き合っていきます。
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