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相模原の森と里山で、野生動物の命と向き合う。狩猟で捕獲した野生動物を活かして伝える「命の大切さ」

相模原市緑区在住の竹内陶子さんは、2018年に相模湖からほど近い場所に住み始め、自身の畑をイノシシに荒らされる経験をしました。自然の中での生活に順応するため、狩猟免許を取得。狩猟で捕獲した動物は皮一つ無駄にしたくないという想いから、現在は「とこはむ」というブランドで、捕獲したシカやイノシシの革から作った製品の販売、革小物作りのワークショップを行っています。
また、キッチンカーでシカ肉のシュウマイ、シカ肉と豚肉の肉まん、イノシシ肉を使ったコロッケなども販売。さらに、賛同してくれる仲間と共に「野生動物との共生の会」を立ち上げて、ジビエ肉のレシピ開発や試食、革や角を使ったワークショップを通して、命のいただき方を一緒に考えてもらおうと啓蒙活動に努めています。
竹内さんがこのような活動をするようになった背景には、さまざまな国を訪れてきた中で、たくさんの命と向き合った経験がありました。

プロフィール
竹内陶子(たけうち・とうこ)
「とこはむ」代表・「野生動物との共生の会」会長・かながわ水源地域の案内人
1983年生まれ、愛知県名古屋市出身。18歳から30代半ばまで多くの時間を海外で過ごした。結婚を機に相模原市緑区に移住。狩猟免許を取得し、現在は農業に従事する傍ら、農作物に被害を与えるシカやイノシシを捕獲。その革を活用し、「とこはむ」で革製品の販売や「野生動物との共生の会」で革小物作り体験のワークショップなどの活動を通して、命の大切さを伝えている。


ニュージーランドで狩猟を初体験。メキシコでは革小物作りをスタート

竹内さんは高校時代から海外での暮らしに目を向けていて、高校卒業後、ワーキングホリデーで訪れたニュージーランドで1カ月ほどファームステイ。そこで初めて銃を持ち、狩猟を経験しました。

ニュージーランドではファームステイを経験

農場主から狩猟に誘われて、銃を担いで馬に乗り、農場の広さと景色の美しさに感動していたときのことでした。持ち主のわからない罠に子ヤギがかかっていました。すでに子ヤギは衰弱していて、農場主は罠を外しても生き延びられないと判断。竹内さんに、子ヤギを銃で撃ち、目の前にある小川に流すようにと指示しました。

「その言葉に驚いてかたまっていると、『子ヤギは、弱っていて長く生きられない。川にいるウナギがこの子ヤギを食べて大きくなる。そうやって命は循環していくのだから、悲しい顔をする必要はないんだよ』と言われました」  

当時19歳だった竹内さんは、自らの手で子ヤギの命を終わらせました。まだ体温の残るからだを抱き上げたときの、命の重さに触れた感覚が今の活動につながる原点となっています。 

「農場で育てていた牛が感染症にかかり、処分しなくてはならない状況にも立ち会いました。農場にいたのはたったひと月ですが、それまで考えたこともなかった『生と死』について目の当たりにした瞬間でした」

メキシコで自身が作った革小物を販売する竹内さん

ニュージーランドから帰国後も、日本と海外を行き来していた竹内さん。革小物との出合いは、長期滞在していたメキシコのグアナファト州にあるレオンでした。レオンは、革の生産や加工にまつわる産業が集まる町で、ハンドメイドの小物も売買されていたことから、竹内さんは趣味で作った革小物の販売を始めました。

日本の着物の端切れと革を張り合わせ、五円玉に通してブレスレットやペンダントに

相模原で暮らし始め、畑を野生動物の被害から守りたいと狩猟免許を取得

竹内さんが作って販売している革小物

海外で多くの時間を過ごしていた竹内さんでしたが、結婚をきっかけに夫である僚さんが住んでいた相模原市に越してきました。

「都会に近い田舎だから選んだと夫から聞いていましたが、実際に来てみたら、東京都心まで1時間もかからないのに湖もある、水と緑に恵まれた素敵な場所でした」

相模原に住み始めて間もないある日、夫の僚さんが仕事で海外に長期滞在中、自分たちが食べるために育てていた収穫直前のジャガイモがイノシシに荒らされてしまいました。

「私にとっては初めての畑だったんです。夫にはイノシシにやられたと報告しましたが、夫がいない間は誰が畑を守るんだろう? えっ、自分しかいない? それなら狩猟免許を取らないと、と考えました」

イノシシの被害にあった後、竹内さんは夫の僚さんと共に狩猟免許を取得しました。

捕獲に使うくくり罠。動物の通り道に仕掛けます

畑周辺に動物が通った形跡があると、輪っか状のワイヤーで脚を捉えるタイプの罠を仕掛けます。このとき、幼い個体がかからないようにサイズを調整するなどの配慮をしています。

罠にかかった野生動物は、できるだけ苦しめることがないよう、銃を使って仕留めます。息絶えたあと、食肉にするために必要な血抜きの作業をその場で行います。

「もう死んでいるとわかっていても、最初に体にナイフを入れる瞬間はとても複雑な気持ちで、慣れることはありません」

最初に仕留めたシカの革で作った印鑑ケースと猟銃許可証ケース。穴は弾丸のあと

「私の命は、シカやイノシシだけでなく、動物や魚など、たくさんの命の上に成り立っています。そう考えると自分で仕留めて解体した動物は、皮一枚であっても捨てることはできません。肉はおいしく食べたいし、皮も余すことなく活用したいと思っています」

狩猟し、動物の命をいただくことに対して自分の中で折り合いつけるために、ジビエ革の有効活用を始め、「とこはむ」を立ち上げた竹内さん。活動の中で野生動物の肉、ジビエに興味を持つ人も少なくありませんでした。そこで、キッチンカーやジビエアイテムの販売も開始。さらに、細かな規制をクリアし、精肉の販売を開始しました。

最近では、野生動物の被害に困っている近くの農家からの相談や、竹内さんの活動に賛同し、時間をかけて丁寧に剥いだ皮を提供してくれる猟師さんもいるそう。

「協力してくれる方々には感謝しています。仲間と一緒に、野生動物の尊厳を守りながら自然と付き合うことを目指しています。」

竹内さんの想いは、着実に広がりを見せています。

ワークショップでは、いのちの大切さを伝えたい

「野生動物との共生の会」では、革を利用した小物作り体験のワークショップなどを行っており、会の活動は相模原市との協働事業にも採択されています。竹内さんはワークショップを通して、野生動物を取り巻くさまざまな問題に関心を持ってもらい、日常的に肉を食べられることや、革でできたバッグや靴、小物類を使えることも、日々誰かが命と向き合い、私たちのもとに届けてくれているからだということを知ってほしい、という想いがあります。

「ワークショップや講演で狩猟について話すことにはやりがいを感じています。あの複雑な気持ちは経験した人にしかわからないもので、私だからこそ伝えられることがあると思っています」

ワークショップで作成する小物

「相模原は都会的な便利さも、田舎の要素もどちらもある場所ですね。だからこそ、人の暮らしと野生動物の営みを分ける境界が曖昧になってきて、これから益々深刻になっていくと考えています。私個人の活動は小さなものですが、ジビエ肉やジビエ革を使った小物共にブランドとして認知されることによって、もっと多くの人に興味を持ってもらえるようになれば、その背景にある野生動物との共生、命のいただき方について、広く考えてもらえるきっかけになればと思っています」

最初に撃ったシカの革は、残りも大切に保管している

たとえ鳥獣対策であっても、「狩猟以外に手段はないのか」と思われているのも事実です。その一方で、狩猟免許保持者の高齢化など、動物の営みと人の暮らしのバランスを守る活動の存続が危ぶまれています。
自然環境や動物たちの命を大切に思うからこそ、その背景にある課題や、守っていくことの厳しさや難しさにも目を向けてもらいたいと、竹内さんは考えています。
 
動物の命と向き合う経験から竹内さんが培ってきた、自然を大切に想う心。
これからも自身の活動を通して、自然と人間との関わりというテーマと向き合っていきます。

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■とこはむ
https://www.instagram.com/toko_ham/