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相模原市で国際教育特区が実現。バイリンガル教育を軸に夢を実現できる人間教育を

相模原市は2007年に相模原市国際教育特区(※)に認定されました。緑区橋本台にあるLCA国際小学校は、この教育特区の制度を利用した学校です。株式会社が経営する全国初の小学校であることに加え、一部の授業を英語で行う“アクティブイマージョン教育”を行っています。児童ほとんどが在学中に英検2級を取得。国内トップクラスの大学に進学する生徒も珍しくなく、現役F1ドライバーとして世界で活躍している卒業生もいます。

LCA国際小学校では1クラス20名と少人数で、英語を話す外国人の担任1名と日本人の副担任1名が付きます。この他に低学年では3名のサポートティーチャーがつくなど、手厚い体制で授業が進みます。低学年では80%、高学年では50%の授業を英語で行うことで、生徒は日本語と英語の両方で知識を身につけ、欧米の考えにも触れながらコミュニケーション力や積極性を身につけていきます。

国際教育特区への道を拓いて学校を立ち上げたのは、学園長の山口紀生さんです。学校開設までの道のりや教育理念についてお話を伺いました。

(※)特区…2002年に施行された構造改革特別区域法に基づく指定を受けた特別区域のこと。全国一律の規制を緩和し、税制面での優遇等により、地域の活性化を図ることを目的としている。

プロフィール
山口紀生(やまぐち・のりお)
株式会社エデューレ エルシーエー代表取締役/ LCA国際学園 学園長
1953年東京都生まれ。高校時代に家族で相模原市に住み始める。1978年横浜国立大学教育学部(現・教育人間科学部)卒業。相模原市立弥栄小学校で教諭を務めたあと、私塾LCAを設立。2000年LCAインターナショナルプリスクールを開設。2005年学校の教科を英語で指導するLCAインターナショナルスクール小学部を開設。2008年構造改革特区制度を利用し、国から正式な認可を受け、「LCA国際小学校」となる。日本で最初の株式会社立小学校校長に就任。2016年LCA国際学園に名称を変更し、学園長に就任。


一人ひとりを尊重し、コミュニケーション力を育てる教育の糸口だった英会話

山口紀生さん

山口さんは東京都世田谷区生まれ。高校生のころ、家族で相模原市に引越して以来、市内在住です。小・中学校時代は毎日百葉箱で気象観測をする、ちょっと変わった子どもだったそう。横浜国立大学教育学部在学中は棟方志功に憧れて版画制作に熱中。卒業後は相模原市立弥栄小学校で6年間教諭を務めました。

「夏休みの終わりには学校に行くのが楽しみで仕方がなかった」というほど夢中になっていた教員生活。1年目は特に楽しく、喜びが一層大きかったそう。一方で、夏休みが近づいてきて子どもたちに何をするのか聞くと、答えが返ってこない。周囲の顔色を見たり、空気を読んだりする子どもたちの姿に疑問も感じていました。
5年間の教員生活を経て、「自分が50歳になった時に、より輝いていられる道を探そう」と退職を決意しました。
その後、自宅近所の家庭から頼まれて始めたのがたった4人の生徒でスタートした小さな私塾。遊びを交えながら楽しく勉強を教えていたところ、子どもたちが学力と積極性を身に付けたと塾は評判に。入塾希望者が増え続け、同じく元教員の妻と2箇所の教室で教えていくことになりました。

私塾を始めたばかりの頃。4人の生徒たちとキャンプ場へ

山口さんの塾では遊びも大切な学び。河口湖までサイクリングしたり、その後テントを張ってキャンプや釣りをしたりと、子どもたちの希望を取り入れながら行うイベントのおかげで、子どもたちは次々と達成感を味わっていきます。自転車で富士山の5合目まで行ったり、さらには2週間もの間キャンプをしながら自転車で北海道を回るなど、行き先は徐々に遠くなります。
次は海外だろうと思い立ち、英語ができないながらもアメリカのアイダホ州に住む知り合いに懸命に手紙を書き、ホームステイを受け入れてもらいます。これが大きな転機になりました。ロッキー山脈をトレッキングするなどスケールの大きな体験をした帰りの飛行機で、子どもたちが口々に言いました。「もっと英語が話せたらな」。

練習した自己紹介以外は少しも英語を話せなかった子どもたちを見て、危機感を覚えた山口さんは英会話教室を開くことにしました。英語は得意でないものの、楽しく教えることはできるだろうという思いがあったため、自分流の教え方で外国人が英語を教える英会話教室を立ち上げることにします。山口さんは当時を「この頃が一番大変でした。特に先生たちの就労ビザを取るのが大変で、何度も入管に通いました」と振り返ります。1990年、苦労が実って塾に英会話教室が加わりましたが、さっそくその状況に課題を見つけます。

「教室は週に1、2回。その間によっぽど自分で練習したり、外国人と英語を使って話したりしない限りはペラペラにならない。つまり練習不足です」

そこで、4泊5日の宿泊学習や理科を英語で学ぶサブジェクト・イン・イングリッシュなど、英語を話す機会を増やしましたが、それでもやはり不十分で、2000年に先生と英語で話す3年制のプリスクール(幼稚園)を設立。オーストラリアから幼児教育の経験者を呼び寄せ、幼い子どもたちが毎日英語に触れる環境を作りました。

「20人クラスで外国人は先生だけなのに、子どもたちはペラペラになり子ども同士でも英語で話すようになっていきました」

オーストラリア人の先生は英語教育以外にも、人と違うことは素晴らしいという根本的な考えを伝え、子どもを1人の人間として尊重して接していました。その様子を見ていた山口さんには発見がありました。

「廊下を走る子どもに彼らは『Walk please.』と声をかけ、走るのをやめたら『Thank you.』と言います。自分が日本語で同じように声をかけようとしても、どうもうまくいきません。日本では教師と子どもには上下関係がありますが、欧米では対等に接していると感じ、最初は欧米人の力を借りて指導していこうと思いました」

人と違うことは素晴らしいこと。個性を大切にして育ってほしいと小学校を設立

学校を立ち上げた時。自由な雰囲気が伝わってくる

小学校ができる以前のこと。英語で会話をし、個人として尊重されたプリスクールを巣立つと子どもたちは公立の小学校に進んでいました。するとやっぱり英語を忘れてしまいます。それだけでなく、クラスメートと持ち物や行動まで揃えることを意識し始めました。上手に話していた英語を子どもが話さなくなったことにショックを受けた保護者から、小学校を作ってほしいという声が挙がるようになったのは、とても自然なことだったのかもしれません。

「何人もの保護者から要請がありましたが、小学校をつくるのは膨大な資金が必要です。難しいと話していたら、だったら寺子屋でいいと言われて、それならば、と」

そして、40名を超える生徒が入学し認可外のフリースクールとして小学校がスタートしました。ちょうどその頃、小泉内閣で「構造改革特区制度」ができました。これだと思った山口さんは教育特区として認可を受けるため、文科省に通い基準を満たす校舎を確保するなど、さまざまな努力を重ねました。元教育長も市立小学校校長会をまとめるなど、サポートをしてくれ、3年が経過した2008年。晴れて認可を受けて、株式会社立小学校として誕生したのが、現在のLCA国際小学校です。

LCA国際小学校は295名、プリスクールには71名の子どもたちが通っています(2023年11月時点)。ほとんどの子どもたちは神奈川県内、東京都内から通学していますが、中には静岡県から2時間ほどかけて毎日車で通う子もいるのだとか。

それほどまでしてLCA国際学園に通わせたいと思う保護者が多いのはなぜなのでしょうか?

2023年11月に開催されたパフォーマンスデーの様子

「『あんなにシャイだったうちの子が人前で上手に話せるようになった』とみなさん驚かれます。卒業生の角田裕毅さんはF1ドライバーとして活躍していますが、F1では英語力はもちろん、自分の想いを相手に伝えられる力が重要と語っていました」

山口さん曰く、コミュニケーション力を育むポイントは、表現力が養われる学校行事です。毎年、発表会にあたるパフォーマンスデーやスピーチコンテスト、自分の好きなことをみんなの前で発表できるタレントショーがあり、子どもたちは年々大勢の前で発表することが楽しくなってしまうそう。

「LCAは、子どもが幸せに、楽しく通えて、将来も幸せに暮らすために必要なことを伝える学校だと説明しています。どうして幸せに通えるかというと、良いか悪いか、上手か下手か、学校が判断しないからです。否定せず、ありのままの子どもを受け入れています」

授業風景

一方で、学校として外国人の先生にも日本式の体育の授業を任せたり、日本の教員免許取得をサポートしたりと、日本の小学校として広く受け入れられるための努力も惜しみません。
 
また、ほとんどの生徒が私立中学校に進学するため、LCAでは中学受験のためのサポートも行っています。主に進学に関する保護者の不安を解消するため、山口さんは“学園長ナイト”と称して保護者と一緒に食事をする時間も設けています。
 
こういった努力のかいあってか、保護者からLCAの教育方針への信頼は厚く、中学校、高等学校の設立を望む声は年々高くなってきました。現在山口さんはその実現に向けて構想を練っています。

地域への貢献と、子どもたちが夢を実現できる成長のための教育

山口さんが生徒4人の私塾を初めてからおよそ40年。その間ずっと相模原が山口さんにとって教育の舞台になってきました。「教員としてスタートした相模原に貢献したいと思ってやってきました。私塾を始めるときも、迷わず相模原の地でスタートしました」と山口さんは話します。LCA国際小学校では、ネーミングライツをしている公共施設・LCA国際小学校北の丘センターに子どもたちが描いた絵画を飾ったり、JR橋本駅構内の英語アナウンスを子どもたちが担当したり、地域にある小学校としても活動を行っています。また土曜日だけのコースとして、公立校に通う子どもたちがLCAの英語教育やカルチャーに触れる機会も用意しています。
「日本の英語教育レベルをもっと上げていきたい。この学校がゴールではなく、ここで培われたものを広めていきたい」と山口さん。英語の教材も作り、他校からの見学も受け入れています。「相模原にも英語教育で力になりたいですね」と笑顔で語ってくれました。

図書室は扉がなく開けた空間になっている。 英語と日本語、両方が揃っていて、貸出率も高いそう
廊下の天井は一部アーチ状。1階は地面をイメージしたオレンジ系、2階は草原のグリーン、3階は空のブルー。山口さんのこだわり

子どもたちが世界で通用する人に育ってほしい、英語はあくまでコミュニケーションの手段であると山口さんは話します。英語で授業を行うだけでなく、社交ダンス、華道、武道など、日本人としての教養を身につける授業を多く取り入れている一方で、欧米人なら誰でも知っているような知識に触れられる環境も整えています。それは、将来子どもたちが世界でも希望を叶えるために必要だからです。例えば、校舎の入り口にはアレキサンドロス大王と高松塚古墳の絵を設置したり、ガレリアクラシコと呼ばれるスペースではギリシャやローマに関する資料を常設したり、廊下に有名画家の絵画を展示することなどを行っています。いつか外国で会話をするとき、話の前提となる知識として教養は役に立つと考えているのです。

「僕がやりたいのは人間教育です。アッセンブリーと呼ぶ朝礼で、子どもたちにいつも語りかけています。夢を実現するためにはどうしたらいいか考えよう。実現できないのだとしたら、その理由はきっと自分の心の中にある。考え方を身につければ夢は絶対叶うよ、と」

山口さんは子どもたちに大人気で、廊下を歩いているとみんなが話しかけてきます。「楽しそうな人だと思われているみたい」と終始にこにこ。山口さん自身が相模原の地で夢を叶え続けているようです。

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■LCA国際小学校
https://elementary.lca.ed.jp/
 
■LCA国際プリスクール
https://preschool.lca.ed.jp/

■相模原市国際教育特区
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shisei/1026766/seido/1026770/kouzo_kaikaku/1003958.html
 
■角田裕毅
https://www.yukitsunoda.com/